2007年8月2日木曜日

子育て支援企業の恩恵:アエラ引用

子育て支援企業の恩恵「女女格差」 満足度2極化
AERA:2007年07月30日号

 国の大号令のもと、企業の仕事と子育ての両立支援策は進化中。

 でも充実させるほど、恩恵に与れる人とそうでない人との間に

 亀裂も生じるという矛盾。みんなが幸せになる職場って……。

 (AERA編集部 後藤絵里)

    ◇

 大手食品メーカーで働くユウコさん(38)は最近、職場でのストレス数値が
上がりっぱなし。立て続けに3人を出産した一般職の先輩女性が、長い育児休業
期間を終えて、8年ぶりに職場復帰してきたのが原因だ。

 「完全な浦島太郎でエクセルも満足に使えない。そのくせゆっくり時差出勤し
てしっかり定時で帰る。私の中で、戦力としてカウントしてません」

 ユウコさんの会社の育児休業は、当時最大3年と業界でもトップクラスだ。そ
の先輩は40代の「均等法世代」だが、出産を機に総合職から一般職にコース替
えした。同じ部署の総合職社員が8時半から働く中、午前10時に時差出勤し、
昼はきっちり1時間休む。忙しい時ほどそのゆとりがカンに障る。

 憧れていた仕事をバリバリこなす先輩たちは、出産を機に「迷惑をかける」と
辞めていった。

 「営業の仕事は体力勝負で正直、キツい。だから仕事ができる人ほど辞めてい
く。結局、仕事をしない人ほど制度の恩恵に与れるという図式ができあがるんで
す」

 別の大手メーカーで働く独身のトモコさん(38)も、以前いた宣伝部門の先
輩が育休をとったと聞いたときの感想は、

 「あ、辞めないんだ」

 その部署は25人ほどの社員の半分が女性で、ノルマもない「ユルい職場」。
その先輩は中でも全然仕事しない人。女性たちの話題の大半はおけいこ事や飲み
会の予定で、自発的に企画を出し、残業するのはトモコさんだけだった。


●ひとり負けの不公平感

 最近も別の部署で、第1子育休中に第2子を妊娠し、3年間の育休をとる先輩
も現れた。一方、管理職のトモコさんは部下数人を抱えて毎晩のように残業の日
々。

 「いつか自分も、と思うからあからさまな批判はしたくない。でも次々に休ま
れると、自分は『ひとり負け』している気がして。この不公平感ってなんなので
しょう」

 国は2005年度から、301人以上を雇用する企業に、子育てしやすい職場
環境を整える行動計画づくりとその届け出を義務づけた。計画を達成すると、国
から「子育てサポート認定事業主」のお墨付きを得られる。

 ある大手企業の女性社員は、OG訪問に来た女子学生から、

 「子どもがいる人といない人の働き方の違いはありますか」

 「育休制度はどれぐらい使われていますか」

 と質問攻めにあった。採用バブルで優秀な社員の確保が難しくなる中、企業は
この「認定マーク」の取得に血まなこだ。

 確かに制度が整うことで、これまで出産で退職せざるを得なかった女性たちも
、育児をしながら働くことが可能になった。それはすべての女性に朗報のはず、
だった。だが、仕事と子育ての両立支援制度を充実させるほど、制度の恩恵に与
れる子どものいる人とそうでない独身や子なし既婚女性の間に亀裂が生まれてい
る。富士通総研の渥美由喜主任研究員はこう指摘する。

 「育児中の同僚のしわ寄せが独身者にいったり、育児時短で帰る人が言い訳と
して子育ての大変さを強調するのが刷り込まれたり。会社が思う以上に、ワーキ
ングマザーとそれ以外の社員との『意識の溝』は大きいのでしょう」


●先進企業での矛盾

 渥美さんは昨春、仕事と生活の両立支援策の「先進企業」20社で働く約30
0人に調査。すると意外な結果が出た。社内環境について尋ねると、子どもがい
る女性の8割近くが、「両立しやすい(ややしやすい)」と答えたのに対し、独
身やDINKSなど、子どもがいない女性の5割が「両立しにくい(ややしにく
い)」と回答(32ページグラフ参照)。つまり子育て中でないと、私生活と仕
事両方を充実させにくいと感じているのだ。「理想と現実のライフコース」につ
いても、子どもの有無で意識の差が明らかになった(右のグラフ参照)。それほ
ど制度が整っていない企業にも同じアンケートをしたが、ここまで顕著な差は出
なかったという。

 NPOとシンクタンクの共同調査で「父親が子育てしやすい会社」第2位にも
選ばれた帝人。昨秋グループ社員約600人に行ったアンケートでは、育休や産
休取得者の周囲からこんな声が上がった。

 「育休を取得した人のフォローに対する評価が全くされない。(中略)フォロ
ーした側としては割り切れなさが残る」(30代女性)

 「いっきに数人が育休をとり、その間は派遣の方に頼らざるを得ない。頼める
仕事も限られているので、自分の負担(量も心も)が大きくなった」(30代女
性)

 育休をとりやすい「先進企業」ならではの悩みといえる。


●対立の責任は会社

 最近は、育休の延長や金銭的な補助といった充実に限らない。成果主義が導入
され、育休などで休んだ間の評価が下がると昇進などに響くため、休業中の評価
に配慮する企業も出てきた(33ページの表参照)。そうなると、休んでいる人
の評価が働いている人よりも高い、という状況も起きかねず、溝はますます深ま
っていく。

 もちろん周囲に迷惑をかけまいと、両立に必死になっているワーキングマザー
も多い。だが、

 「仕事の成果が見えにくい中で、手厚い両立支援策を入れると、それが既得権
益化し、まじめに働く人の足を引っ張ることがある。職場にモラルハザードを起
こしてしまう」(渥美さん)

 ことも起きかねないのだ。

 大手電機メーカーに勤める女性(39)は最近、前の職場の短大卒の女性が、
2人目の育休に入ったと知って、全身から力が抜けた。

 「リストラのあおりで仕事が激増し、こっちは『仕事がひと区切りしたら』と
思って結婚を先送りにしてきたのに。でも、こうやって女性同士の意識の対立が
生まれるのも、人の手当てをしていない会社の責任。怒りはむしろ会社に向く」

 こうした職場の「女女格差」を解消しようとする、超先進企業も現れ始めた。


●制度利用率に差

 両立支援制度の充実で知られる資生堂(表参照)も、最近まで「溝」を抱えて
いた。

 支援策の多くは、百貨店など一線で働く美容職(BC)にとっては「絵に描い
た餅」。BCの仕事は夕方からが書き入れ時だ。2人体制でシフトを組むので、
一方が毎夕、早帰りすれば、相方は毎日「遅番」をしなければならない。一方、

 「一番忙しい時に抜けるのは気が引ける。5時前に帰るはずが、7時になるこ
ともしばしばでした」

 と、3歳半の女の子がいるBCの土居直子さん(29)。前の職場で妊娠した
3人のBCは全員辞めた。

 05年に設立間もないCSR部と労働組合が社員にアンケートをとったら、未
就学の子がいる社員の育児時間の取得率は研究職が90%、総合職が65%だっ
たのに対し、BCはわずか25%。申請しない理由は、「周囲に迷惑をかける」
が最多だった。

 「制度があるのに使えないBCにとっては『本社はいいわね』となる。結果的
に、本社と現場との間で必要以上の溝を生んでいた」(人事部人材開発室の本多
由紀さん)

 05年6月に就任した前田新造社長は、全国行脚でBCの実態を知り、すぐに
制度改善を指示。4月からカンガルースタッフ(KS)制度を導入した。育児時
間をとるBCの補充要員として、2〜4時間の勤務をする学生やOGの契約社員
を全国で487人採用した。


●利用者の6割が男性

 松下電器産業は4月に在宅勤務制度「e−Work」を導入。パソコンなどの
設備を会社が貸し、データは社内サーバーに保存してセキュリティーを確保した
うえで、月の半分まで在宅勤務できる環境を整えた。出張時などに立ち寄れるよ
う、通信設備がある「スポットオフィス」も設けた。女性に限らず、間接部門で
働くグループ社員3万人を対象にしたのも特徴だ。多様性推進本部事務局の金森
奈緒さんは言う。

 「もともと日本的な会社で、仕事は会社で、長く働くのは頑張っている証し、
という意識があり、そんな社内風土が大きく変わった」

 それまで育児と介護に限り在宅勤務を認めていたが、利用者はデザイナーやシ
ステム開発者など一部の職種に限られていた。新制度を昨年試行したところ、延
べ千人が利用。育児目的の利用は3割で、むしろ6割が男性だった。


●トップの本気度がカギ

 松下の場合も、トップの「本気度」がものを言った。中村邦夫社長(当時、現
会長)は一社員の時から「定時帰りの中村」で知られ、「時間は資源だ」が口癖
。家庭と仕事を両立させる女性たちの時間効率の高さに注目していたという。

 「両立支援は福祉ではなく経営戦略だという方針を明確にし、中期計画に組み
入れたことで、社内の風土改革が一気に進んだんです」(労政チームの蘆原由美
子さん)

 前出の渥美さんは言う。

 「両立支援の目的は単なる生活重視ではなく、時間あたりの生産性の向上。限
られた時間内に成果を上げるのがトクだと誰もが納得できるよう、業務の平準化
や透明な評価の仕組みが必要です。それがあればモラルハザードは起きにくいし
、非正社員、障害者、外国人と、多様な働き方に応用できます」

 (文中カタカナ名は仮名)


■両立支援「先進企業」の女性たちに聞きました

 ◇専業主婦……結婚・出産の機会に退職、その後は仕事を持たない

 ◇再就職………結婚・出産の機会に退職、子育て後に再び仕事を持つ

 ◇両立…………結婚し子どもを持つが仕事も一生続ける

 ◇DINKS…結婚するが子どもは持たず仕事を一生続ける

 ◇非婚就業……結婚せず仕事を一生続ける


Qどんなライフコースを描いていますか?

 ◆子どもがいる人では…

       理想的な    実際になりそうな

       ライフコース  ライフコース

 専業主婦   3.4%        0%

 再就職   26.7%     12.9%

 両立    67.2%     86.2%

 DINKS  1.7%        0%

 非婚就業   0.9%      0.9%


 ◆いない人では…

       理想的な    実際になりそうな

       ライフコース  ライフコース

 専業主婦  12.7%      3.6%

 再就職   26.4%     41.8%

 両立    52.7%     27.3%

 DINKS  5.5%     17.3%

 非婚就業   2.7%       10%


 ■社内で仕事と育児は両立しやすいですか?

       子どもがいる人 いない人

 しやすい   29.8%     12%

 ややしやすい   49%   35.2%

 ややしにくい 15.9%   28.8%

 しにくい    5.3%     24%


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1 件のコメント:

Mick Bright Kim さんのコメント...

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