AERA:2007年07月30日号
お茶くみ、コピー取り、「職場の花」なんて昔話。
オフィスのIT化が進み、派遣も人材不足のいま企業は新「一般職」に、コミ
ュニケーション能力に優れ、高度な業務もこなすハイパーOLを求めているのだ
。
(AERA編集部 有吉由香)
伊藤忠商事と丸紅、大手商社2社が今年の採用(2008年卒業予定者)で、
9年ぶりに一般職採用を復活させた。
女子学生の人気は高かった。丸紅の場合、29人に内々定を出したが、ホーム
ページからエントリーしたのは5005人。筆記試験を3000人が受けたとい
うから、かなりの倍率だ。
男子からの応募も少数あったというが、結果的に内々定者は全員女性だったと
いう。
「総合職のアシスタント業務が中心」「原則として転勤なし」とは言うものの
、求める人材は過去とはだいぶ様変わりしている。
「『職場の花』や『腰掛け』のイメージで来てもらっては困ります。長く勤め
て業務に習熟し、事務処理面におけるリーダー的な役割を果たして欲しいのです
」(小山秀明人事部採用・人材開発課長)
●「一般職が減りすぎた」
では実際には、どんな仕事内容なのだろう。
一般職としては前世代の最後、1999年に丸紅に入社した、パルプ部パルプ
第一課の金沢慶子さん(30)は、こう説明した。
「パルプを輸入して国内に販売する営業のアシスタントなのですが、商品の通
関からデリバリーのフォロー、仕入れ・売り上げの経理処理など、作業量も多く
神経を使う仕事です。部長席の秘書的な業務も兼務しているので、1度に5〜6
コの業務を処理しているような状態。トイレに立つのを忘れるくらい忙しい日も
あります。仕事は4人の女性で行っていますが、3人は後輩の派遣社員なので、
教えながらやっています」
商社の事業が輸出入だけでなく事業投資などへと多角化していくなかで、総合
職の仕事の一部を一般職が肩代わりするようになってきているという。
一方で、きめ細かい目配りも求められる。どういう人が一般職向きか、金沢さ
んに聞いてみると、
「総合職では手が行き届かない仕事を積極的にサポート出来る人が向いている
と思います。会議の前にその部屋がきれいかどうかチェックしておくとか、備品
を適宜補充しておくとか。小さなことに気づいて時間があるときにやっておくこ
とも、仕事の一つです」
鹿島浩二人事部企画課長によれば、一般職の採用を休止した99年からはIT
技術の進化による業務の効率化などで、派遣社員が仕事を代わりにこなせる部分
が増えた。代替は進み、99年に1200人弱だった一般職は06年には約63
0人と半減した。
「一般職が減りすぎた感じも出てきた。昨年からは、派遣で3年以上同一部署
で働いた人を対象に、試験などの条件付きで正社員への採用も始めました」(鹿
島さん)
●ノウハウの伝承は社員
同じように99年から一般職採用を凍結していた伊藤忠。復活させた理由を、
平山伸一人材開発室長はこう語った。
「事務を担う人材について社内で見直しをかけました。仕事のノウハウを蓄積
し、伝承していくのには、一定のサイクルで入れ替わる派遣社員では限界があっ
た。後進の育成や指導も必要だし、機密性が高かったり、お金を扱ったりする業
務の遂行には社員が適していると判断しました」
学生側の「売り手市場」に転じた時代背景もあるという。
「メガバンクが大量採用を続けるなど、優秀な人材を確保する競争が激しくな
っている。さらには優秀な派遣社員を確保することも難しくなっています」(平
山さん)
たとえば、みずほフィナンシャルグループは、2500人の採用予定のうち1
300人が「特定職」と呼ばれる転勤のない一般職。これでも前年からは横ばい
の規模だという。
保険業界でも、朝日生命保険が10年ぶりに、いわゆる一般職の職務を拡大し
た「エリア総合職」として、採用を復活させた。08年卒業の採用予定人数は首
都圏で50人、全国で計100人。
「これまで契約社員として入社して3〜5年で専任職へ移行するという形を取
っていたが、売り手市場になって、契約社員という形で質の高い人材を採用する
のが難しくなってきた。学生の立場でどちらの形での就職を望むかは、明らかで
すから」(朝日生命の採用担当者)
人材の争奪戦は激しさを増している。
伊藤忠の場合、内々定を出したのは25人。一般職に求めるのはどのような学
生なのか。
「事務職にはノウハウの蓄積と伝承、後進の指導・育成、組織運営のサポート
、機密性の高い業務の遂行、さらには伊藤忠らしさの継承が期待されています。
コミュニケーション能力を重視しており、ワードやエクセルなどに習熟している
ことが望ましいですね」(平山さん)
96年入社の一般職、ゴム・タイヤ部の長沢加奈子さん(33)はこう話した
。
「向いているのは、チームワークの大事さを意識し、チームのために貢献する
ことを自然に考えられる人だと思います」
●海外出張や、教育係も
派遣社員が増える間、一般職は何をすべきか考えさせられたという。
「派遣との差別化をいかに図るか考えました。結論は、チームワークで確固た
るポジションを築くことでした。商社なので、当部では総合職の半数は海外に出
ています。総合職が外で攻めの仕事をするために、事務職は東京を拠点に守りを
固めるということです。私は、日本のメーカーと海外からの顧客を結ぶ営業を担
当しています。必要に応じて海外出張もしております」
活躍の場は広がる。制服は廃止している企業が多い。
朝日生命に82年、一般職に当たる当時の「専任職」として入社した、店頭サ
ービスマネージャーの岡野みどりさん(46)もこう話した。
「昨年度から、課長職としてのマネージャーを務めています。事務で働ければ
いいと思って入りましたが、任される範囲が広がって、やりがいを感じています
。全国に出張してお客様応対の教育もするようになりました。コピーなどを男性
が自らやるようになりましたし、制服も廃止されました。男女の差がなくなって
、働きやすくなったと思います」
ある都内の大手企業に勤める一般職女性(38)の話を聞くと、以前との違い
が浮かび上がる。
「私が就職した頃は、商社の一般職を受けに行く女子学生はスーツではなく白
襟のワンピースを着て、お嫁さん候補のようでした。また、有名大学に行ったら
総合職、短大なら一般職というような区別がありました。さらに、その頃には男
性上司の殴り書きの文書をワープロで清書したり、経費の精算を代わりにしたり
という作業をしていました。今はパソコンで自分でやった方が早いから、だれも
頼んできません。部長でも自分でコピーを取っています。気分転換に自分からみ
んなの分のお茶をいれることはありますけどね」
●長く働き続けたいから
社員として雇うからには長く勤めて欲しいと思う企業側と、できれば長く働き
たいという女子学生の意識もかみ合ってきている。
毎日コミュニケーションズの08年卒業予定者へのアンケートでは、働く期間
について、「できれば結婚・出産後も働き続けたい」が63%、「定年まで働き
たい」が19・5%と計8割以上を占めた。「出産するまで」(10.8%)、
「結婚するまで」(5.5%)、「あまり長い期間働く気はない」(1.2%)
は比較的少数にとどまっている。
女性の就職問題について詳しいジャーナリストの福沢恵子さんは、こう話した
。
「女子学生側にとっては、総合職で働くということは男性と同じ基準で残業や
出張、転勤を引き受けるということで、ハードルが高すぎると感じる学生も多い
。本音を言えば、働いて自立するのもいいけれど、稼ぎのいい男性がいたら結婚
して専業主婦になりたいという人もかなりの数に上るように感じます」
一方で、企業側の狙いをこう見る。
「事務や経理、人事のように直接の利益にはつながらないが、会社の運営には
不可欠の部署には適切な人材を配置したい。けれど、派遣社員では機密事項を任
せられなかったり、最長で3年しか雇用契約できないので社員を囲い込みたい事
情がある。その辺りがかみあったのではないでしょうか。ワークライフバランス
を強調している企業が増えているのも、一般職でも長く働いて欲しいというメッ
セージと受け取れます」
就職氷河期はどうやら過ぎ去った07年。
残業も転勤もいとわずガンガン働く"バリキャリ"と、転勤はなく一カ所で拠
点を守る"ハイパーOL"。どっちがエライとか、どっちが幸せとか、そういう
比較は必要なくて、ライフスタイルの志向次第だ。
それでも仕事では、嫌なことも悩むこともある。そういう時には、OLのバイ
ブル『Good Job』をお読みあれ。
いわゆるフツーのOL上原は、
「そりゃ わたしがいなくなっても 代わりはいくらでもいるだろうけど 総
理大臣の代わりだっているんだよ」
こう言って、OLの仕事にやりがいを感じられない同僚にカツを入れる。どこ
にでもいるのは、それだけ必要だから。仕事に前向きになれる漫画だ。
■かつての一般職
○補助的な仕事が中心
お茶くみやコピー取り、書類の整理など男性の総合職のアシスタント的な仕事
が多かった。「職場の花」とも呼ばれていた。
○短大卒
一般職は短大卒が主力で、総合職は四年制大学卒というような区別が何となく
出来ていた。
○転勤がない
○制服あり
ベストやスカートなどの制服を着ることが多く、女性社員の中で総合職と一般
職の区別がなんとなく見えた。
○結婚したら寿退社
20代で結婚して寿退社することを期待され、働き続けていると「お局」と言
われたり、肩たたきに遭ったりすることもあった。
■新しい一般職
○総合職の仕事の一部も肩代わり
補助的な仕事が中心ではあるが一般職の仕事の内容は高度化。部署によっては
営業の担当を持つことや、海外出張に出ることもある。
○四年制大学卒
大手企業の一般職は四年制大学卒が主流になっている。
○転勤がない
○普通のスーツ
銀行の窓口業務など例外もあるが、全体的に制服は廃止の方向へ。スーツ姿で
オフィスで働く姿は総合職と区別が付かない。
○結婚、出産後も働き続ける
企業側は長く働くことを前提に一般職を採用し、産休・育休などの制度を充実
させている
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